怒ると涙が出て止まらなくなる、自分のことを話し始めると涙が出てきてしまう、ということを経験される方は少なくないようです。
怒りに関するブログにも書きましたが、怒りというのは本来自分を守るために働く適応的な感情です。自分の中に力が湧き、自分はここまで傷つけられる筋合いはない、こんなに不利益を被る必要はないとしっかりと主張し、怒りを表すことは、健全な心理的な境界線を引くことを手伝ってくれます。
しかし、多くの方にとって怒りという感情には触れたくないものかもしれません。「いい大人が冷静さを欠いて取り乱している」と感じたり、「女性なのに怒りっぽいなんて恥ずかしい」「こんなことで怒ってしまう自分は成長がなくて悲しい」と感じるかもしれません。そういう時には、怒りとほぼ同時に恥ずかしさや悲しさが入り混じっているのかもしれません。相入れないと思われるような感情がほとんど同時に起こるというのは、カウンセリングではよく見られる現象です。
また、自分の気持ちを話し始めると、楽しい気持ちに触れた時にでも涙が出てしまう経験をする方もいるかもしれません。実際にそういう方の心の中で何が起こっているか、それは本当に人それぞれですが、これまで十分に扱いきれていなかった失敗や挫折の経験、喪失体験、傷ついた気持ちなどが、未完了の形でどこか胸の中に残っているのかもしれません。気持ちに触れた時に過去経験してきた気持ち、自分でもあまり意識せず抑え込んできた気持ちがあふれてしまうこともめずらしいことではありません。
このように自分でも理解できない感情の反応は、感情に対する感情(例:怒りに対する悲しさ)という見方をすることも役に立ちますし、これまで生きてきた中での未完了の感情、抑え込んできた感情があると捉えて見ることも役立ちます。
怒りと共に傷つきがある、恥ずかしさと一緒に孤独がある、などさまざまなつらい感情は複雑に複合されたものであることが多いように思います。その気持ちを楽にしていくためには、その複雑なものを一つ一つ大切に感じ取りながら語っていく作業が役に立ちます。
カウンセリングでは、「話す」ということだけでなく「感じる」「体験する」ということも同じかそれ以上に大切です。感情を扱うためのワークというものもさまざまあります。イメージを使ったり、身体を使ったり、じっくりと注意を向けたり、そういう作業のために時間を取れることで、意図せずして起こる感情の反応が自然と落ち着いてくることがあります。